
工場長になったら問題だらけだった|イシュー思考で「忙しい工場」を変えていく方法
工場長になれば、もっと自分の思い通りに仕事ができる。
昔の私は、どこかでそんなイメージを持っていました。
しかし、実際の工場長の仕事はそんなに単純ではありません。
「残業が多い」
「人が足りない」
「不良が出た」
「新人を教育しなければならない」
「設備がおかしい」
「治具が壊れた」
「5Sを進めなければならない」
「ISOの準備もしなければならない」
朝から現場を回り、トラブルが起きれば呼ばれ、会議に出れば新しい課題が増える。
一つ片づけても、また一つ問題が出てくる。
気づけば、
「今日も一日中働いたのに、結局何が前に進んだんだろう」
そんな状態になってしまいます。
これは工場長だけの話ではありません。
20代、30代で、
「仕事が多すぎる」
「頑張っているのに評価されない」
「毎日忙しいだけで成長している気がしない」
「もう転職した方がいいのかな」
と思っている人にも、実は同じことが起きています。
もしかすると問題は、
仕事量ではないのかもしれません。
「何を解くべきなのか」が決まっていないこと。
そこに本当の問題があるのかもしれません。
工場長の机には、問題が山積みだった
ある日の製造会議。
工場の問題が次々と報告されていきます。
残業。
前処理。
ブラスト。
治具。
5S。
ISO。
品質不良。
教育。
一つひとつを聞けば、どれも放っておくことはできません。
たとえば残業。
特定の作業者に仕事が集中し、70時間、80時間を超える残業が発生している。
しかも、これから退職や一時帰国によって人員が減る可能性もある。
そのため、
「この人がいなくても塗装できる」
「この人がいなくても検査できる」
という状態をつくらなければならない。
現場では、教育を急ぐ必要がありました。
一方、ブラスト工程でも問題が起きています。
稼働時間の記録が十分に残っていない。
消耗材の使用量も増えている。
治具の一部が欠け、設備内部に詰まっている。
条件を変えた方がいいのか。
圧力なのか。
粒の大きさなのか。
設備なのか。
原因を検証しなければならない。
さらに前処理では、もっと深刻な問題が起きていました。
ある製品を68台生産したところ、
54台に内面のサビが発生。
ところが別の作業者がエアブローした製品では、サビが発生していなかった。
調べてみると、作業者によってエアブローの方法が違っていました。
問題はここからです。
実は、
作業手順書はすでに存在していたのです。
それなのに現場では、その通りに作業されていなかった。
会議では、
「作ることが目的ではなく、運用することが目的」
という指摘まで出ます。
工場長は思います。
残業も減らさなければならない。
教育もしなければならない。
ブラストも改善しなければならない。
不良も止めなければならない。
標準書も見直さなければならない。
5Sもある。
ISOもある。
「……いったい、どこから手を付ければいいんだ?」
そこで「イシュー思考」という考え方に出会う
そんなとき、一つの考え方を知ります。
イシュー思考。
言葉だけ聞くと難しそうです。
でも考え方はシンプルです。
目の前に問題が10個あったとしても、
10個全部を同じ力で解こうとしない。
まず考える。
「この工場を良くするために、本当に解かなければならない問題は何だ?」
これが出発点です。
イシュー思考では、問題解決の最初に「どの課題に取り組むか」を見極めます。
どれだけ一生懸命働いても、課題設定そのものが間違っていれば問題は解決しません。
反対に、
解くことが可能で、解決したときのインパクトが大きい課題
を見つけられれば、限られた時間、人、資金をそこへ集中できます。
工場長は、自分の仕事を振り返りました。
もしかすると今まで、
「発生した問題を順番に処理すること」
が仕事になっていたのではないか。
「残業を減らせ」はイシューではない
最初に工場長が向き合ったのは残業でした。
「残業を減らそう」
一見すると立派な目標です。
しかし、
「残業を減らす」
だけでは具体的に何をすればいいのか分かりません。
そこで問いを変えます。
なぜ残業が発生しているのか?
全員が忙しいのか。
一部の人だけなのか。
設備能力が足りないのか。
仕事量そのものが多いのか。
段取りが悪いのか。
特定作業をできる人が少ないのか。
会議の内容を振り返ると、一つの事実が浮かび上がります。
特定の人に残業が集中している。
ならば、
「残業時間を減らすにはどうする?」
より、
「なぜ特定の人にしかできない仕事が残っているのか?」
の方が、本質に近いかもしれません。
工場長は仮説を立てます。
残業問題の本当の原因は、人が足りないことではなく、特定の人に技能が集中していることではないか。
ここから仕事が変わります。
「人が足りない」ではなく「誰が何をできるか」
工場長は人員表を見るのをやめて、
技能を見ることにしました。
Aさんは塗装ができる。
でも検査はできない。
Bさんは検査できる。
しかし設備の段取りはできない。
Cさんはブラストができる。
ところがCさんが休むと代わりがいない。
すると、
「10人いる」
という情報より、
「この工程を一人で完結できる人が何人いるか」
の方が重要だと分かります。
そこで技能マップをつくる。
誰が何をできるのか。
一人でできるのか。
補助があればできるのか。
教育中なのか。
できないのか。
そして優先順位を決める。
全部教える必要はありません。
まず、
止まったときの影響が一番大きい工程から教育する。
これがイシュー思考です。
次に工場長は「54台のサビ」を考えた
次の問題は品質です。
68台生産して54台にサビが出た。
これは大きな問題です。
普通なら、
「再発防止を徹底しよう」
「作業者を教育しよう」
「注意して作業しよう」
となるかもしれません。
でも工場長は、以前とは違います。
まず仮説を立てます。
「サビの発生を左右しているのは、エアブロー方法ではないか?」
理由があります。
同じ製品なのに、ある作業者が処理したものではサビが出ていない。
作業者が変わった後に大量発生している。
さらに、作業方法が統一されていない。
だったら、まずここを検証する。
全員を集めて長時間の品質会議をする必要はありません。
設備を買い替える必要もありません。
まず、
標準条件で作業して結果を見る。
違ったら仮説を書き換える。
仮説は「当てるもの」ではない
ここで重要なのが仮説思考です。
仮説というと、
「正解を言わなければいけない」
と思ってしまいます。
でも違います。
仮説は、
現時点での仮の答え。
間違っていて構いません。
「エアブローが原因ではないか」
と仮置きする。
実験する。
違った。
ならば、
「薬液条件では?」
「乾燥までの時間では?」
「素材状態では?」
と更新する。
重要なのは、
最初から正解することではありません。
仮説→検証→更新
を速く回すことです。
工場長の仕事も同じでした。
「手順書を作る」という仕事を疑う
ここで工場長は、もう一つ大きなことに気づきます。
現場には手順書がありました。
でも守られていなかった。
だったら、
「もっと立派な手順書を作ろう」
は本当に解くべき課題でしょうか。
違います。
本当の問いは、
「なぜ手順書が現場で使われないのか?」
です。
作った場所に置かれているだけなのか。
朝礼で確認していないのか。
内容が現場に合っていないのか。
作業者が理解していないのか。
管理者が確認していないのか。
ここを解かなければ、
100ページの立派な標準書を作っても品質は変わりません。
工場長は考えます。
「書類を完成させることが仕事になっていたのかもしれない」
本当の目的は、
書類を作ることではなく、誰が作業しても同じ品質になること。
目的が変わると、行動も変わります。
工場長の会議が変わった
翌月の製造会議。
以前なら、
「ブラストについて引き続き改善します」
「教育を進めます」
「不良削減に取り組みます」
「5Sを進めます」
と報告していたかもしれません。
しかし今回は違います。
工場長はホワイトボードに書きました。
今月の最重要イシュー
「特定技能者が不在でも、主要工程を止めずに生産できる状態をつくれるか?」
その下に三つの課題を書きます。
技能の属人化。
標準作業の未定着。
工程データの不足。
そして言います。
「今月は全部を同じようには追いません」
会議室が少し静かになります。
「まず、この三つを優先します」
「忙しい工場」から「考える工場」へ
それから少しずつ工場が変わり始めます。
ブラストをやったら稼働時間を記録する。
不良が出たら、
「気をつけよう」
ではなく、
「どの条件で発生した?」
と聞く。
教育するときも、
「一通り教えた」
ではなく、
「一人で作業を完結できるか」
で判断する。
標準書も、
「作成済み」
ではなく、
「現場で実際に使われているか」
を見る。
会議では、
「何をやった?」
だけではなく、
「何が分かった?」
を聞くようになる。
この違いは小さく見えます。
でも、工場にとっては大きな変化です。
3か月後、残業時間に変化が出始める
教育していた作業者が、一人で工程を担当できるようになる。
ベテランに集中していた作業が分散される。
「○○さんがいないから今日はできない」
という仕事が少しずつ減っていく。
不良についても、
誰が作業したか。
どの条件だったか。
何時から何時まで設備を動かしたか。
データが残るようになる。
問題が起きても、
「たぶんこれじゃない?」
という会話から、
「前回と違う条件はここです」
という会話に変わる。
工場長自身も変わります。
朝から晩までトラブルを追いかけていた人が、
一歩引いて、
「今、一番解く価値がある問題は何だ?」
と考えられるようになる。
半年後、社長からの質問が変わる
半年後。
また製造会議があります。
社長が聞きます。
「残業どうなってる?」
工場長が答えます。
「まだ完全には解消していません。ただ、原因はかなり絞れています」
資料を一枚出します。
「全員の残業を一括りにせず工程別・作業者別に分けました。現在の最大のボトルネックはこの工程です」
さらに続けます。
「ここをできる人が現在2人しかいません。今月3人目を教育中です。一人で作業できる状態になれば、この工程の残業は下げられるという仮説です」
社長が聞きます。
「いつ分かる?」
「今月末です。そこで結果を見て、仮説が違えば次の原因を検証します」
以前なら、
「頑張って残業を減らします」
だった。
今は違います。
問題を構造化し、仮説を持って説明している。
工場長は、
問題に追われる人から、
問題を解く人
へ変わり始めていました。
仕事が多すぎて転職したい20代・30代へ
ここまで工場の話をしてきました。
でも、これは工場だけの話ではありません。
メールが20件。
会議が3件。
資料作成。
上司への報告。
顧客対応。
後輩教育。
トラブル処理。
毎日必死に働いているのに仕事が終わらない。
そんな状態になると、
「自分は仕事が遅い」
「能力がない」
「この仕事に向いていない」
と思ってしまいます。
でも、本当にそうでしょうか。
もしかすると、
すべての仕事を同じ重要度で処理していること
が問題なのかもしれません。
仕事が10個あるなら、
まず考えてみてください。
「今日、この一つだけ解決すれば状況が大きく変わるものは何だろう?」
これだけでも仕事の見え方が変わります。
「全部頑張る人」から「大事なことを見抜く人」へ
20代の頃は、
たくさん仕事をこなせる人が仕事のできる人に見えるかもしれません。
でも30代になり、
後輩を持ち、
チームを任され、
管理職に近づくほど、
求められる能力は変わります。
100の仕事を必死に処理することより、
「この100の中で、本当にやるべき10はどれか」
を判断する力の方が重要になっていきます。
さらに上に行けば、
10ではなく、
「今月、組織として絶対に解くべき1は何か」
を決めなければならなくなる。
工場長の仕事は、その典型なのだと思います。
転職しても「問題を解く力」は持っていける
ここで転職の話につながります。
設備は持っていけません。
会社の肩書も持っていけません。
今の会社の商品も顧客も、転職すれば変わります。
でも、
問題を整理する力。
本質的な課題を見つける力。
仮説を立てる力。
検証する力。
人を育てる力。
仕組みにする力。
これは持っていけます。
だから私は、
今の職場で起きている問題を、
ただの「嫌な仕事」として見るのは少しもったいないと思います。
残業問題も、
品質不良も、
上司からの指摘も、
人間関係も、
自分の問題解決能力を鍛える教材
として見ることができるからです。
工場長が最後にたどり着いた答え
工場長になったばかりの頃。
目の前には100個の問題がありました。
100個全部を解決しなければならないと思っていました。
だから毎日忙しかった。
でも半年後。
問題がなくなったわけではありません。
工場には相変わらず問題があります。
むしろ、新しい問題は毎日のように出てきます。
それでも以前ほど慌てなくなりました。
問題が起きると、まず自分に問いかけます。
「この問題の本当のイシューは何だ?」
そして、
「解けるか?」
「解いたときのインパクトは大きいか?」
「今やるべきか?」
と考える。
やらないと決める仕事も増えました。
部下に任せる仕事も増えました。
その代わり、
本当に重要な問題には以前より深く入り込むようになりました。
ある日の夕方。
工場長は、誰もいなくなった工場を歩きます。
以前なら、この時間でも何人もの作業者が残っていました。
今日は少ない。
教育していた若手が、一人で設備を止め、日報を書いています。
工場長が聞きます。
「今日どうだった?」
若手が答えます。
「昨日より条件を少し変えました。こっちの方が不良が少ないです。明日もう一回確認します」
工場長は、
「分かった」
と言って、その場を離れます。
歩きながら、少しだけ笑います。
自分だけが変わったのではありません。
工場そのものが、考える組織に変わり始めている。
会社を変える前に、「問題の見方」を変えてみる
仕事がうまくいかないと、
私たちは環境を変えたくなります。
もちろん、転職した方がいい場合もあります。
でも、その前に一度だけ試してほしいことがあります。
目の前にある問題を全部紙に書き出してみる。
そして問いかける。
「この中で、本当に解くべき問題はどれだ?」
仕事量を減らすのではありません。
問題の見方を変えるのです。
すると、
「忙しすぎて何もできない」
と思っていた世界の中から、
一本の道が見えてくることがあります。
そして、その一本を解く。
結果を見る。
仮説を書き換える。
また解く。
その経験を繰り返した人は、
今の会社に残ったとしても、
別の会社へ転職したとしても、
以前とは違います。
なぜなら、
問題から逃げる人ではなく、問題を解ける人になっているからです。
20代、30代で身につけたいのは、
すべての問題を解決する能力ではありません。
無数にある問題の中から、
「今、本当に解くべき問題」を見抜く力。
それこそが、これからどんな会社で働くことになっても、
あなたと一緒についてくる、
強いキャリアの武器になるのだと思います。